消化器内科医のひまつぶし

医療関係を中心に?日々起こった事、思った事書いていこうかと思います。

【ちょっと情報】腸管の癒着とは

皆様お疲れ様です。

久しぶりに医療情報を紹介していきたいと思います。

 

今までも何度か話に出たことがありますが、よく患者さんから質問される腸管の癒着について説明させて頂きます。

 

【癒着とは】

【癒着の原因】

【癒着の起こる時期】

【癒着の治療法】

【癒着の対処法】

 

【癒着とは】

癒着というのは炎症が起こることによって組織と組織がくっついてしまうことです。

お腹の中には様々な臓器がありますが、一番動いている臓器は腸管(小腸、大腸)です。

この腸管の組織が、お腹の中の組織とくっつくことで動きが悪くなってしまうと、食物の運搬機能が落ちてしまい、腸閉塞(イレウス)を引き起こすリスクとなってきます。

 

【癒着の原因】

癒着が起こる原因としては、

①手術 ②腹腔内の強い炎症 ③その他 があります。

①手術

一番多いのは手術です。手術によって傷ついた組織がお腹の中で修復される際に腸管の外壁の組織とくっついてしまい、腸管の動きが弱まってしまいます。

特に子宮や卵巣、膀胱などの下腹部の手術後はS状結腸という大腸の癒着が起きやすく(その他でも起きる事はあります)後々問題になることが多いです。

 

②腹腔内の強い炎症

炎症が起きると手術と同様に癒着が起きます。

腹腔内の強い炎症の例としましては、

胆嚢炎、急性膵炎、卵巣炎、虫垂炎、結腸憩室炎などがあります。

また急性腸炎や腎盂腎炎などもかなり強い炎症になれば癒着が起こることもあります。

 

③その他

他には癌が腹腔内に転移してしまう腹膜播種などでも起こってきます。

 

【癒着の起こる時期】

ここがよく聞かれるのですが、癒着はすぐには起こりにくいです。

10年20年前の手術が原因で癒着が起こったりなんて話も多々あります。

なので上記の起こるリスクのある方は今後注意は必要です。

 

【癒着の治療法】

残念ながら癒着を治す薬はありません。

唯一癒着を物理的に剥がす手術(癒着剥離術)はありますが、手術になりますので体へのダメージが強いのと、この手術にても癒着が起きてしまう事もあります。

 

【癒着の対処法】

癒着が起きても症状がなければ経過観察で大丈夫ですが、

先ほども書きましたが腸閉塞が起こり易くなるので便通には注意が必要です。

便秘、腹痛などがひどくなるなどの症状が出てくる場合は内服を開始します。

その場合は消化器内科にて内服薬の調整を行っていきます。

一番よくつかわれるのが

大建中湯

という漢方薬です。

これは手術後の癒着に対して効果的とのデータも多く示されておりかなり有効です。

基本的に便が詰まらない様、常に動かす必要がありますので内服はずっと継続する必要があります

 

これでダメなら、薬を追加していきます。

 

僕の使用例としましては、 

●腸管を動かす薬として

ガスモチン、ナウゼリン、プリンぺラン、センノシド、ラキソベロン等

 

●便を柔らかくする薬として

酸化マグネシウム、アミティーザ、最近ではリンゼス、グーフィス、モビコール等

 

●腸管ガスを減量する薬として

ガスコン

 

これらを組み合わせて使用していきます。

個人によって内服の効き方も違うので正解の処方は1つには決まりません。

もし昔に手術や大きな炎症を罹患され、現在便秘、腹痛などの症状で悩まれておられる方いらっしゃいましたら一度消化器内科を受診してみて下さい。

 

最後まで読んでいただきありがとうございました!

 

【雑記】優しい笑顔 最終話 闘病編【5日目 後編】

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

ついに最終話になりました。よろしくお願い致します。

 

前回はコチラから 

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話の始まりはコチラから 

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【5日目】

 

Aさんのベットはカーテンで覆われていた。

その向こうにうっすらと影が映る。

 

僕「Aさん、おはようございます。」

 

ゆっくりとカーテンを開けて中に目をやる。

 

 

そこには少しやつれたAさんがいた。

 

A「あぁ、先生。おはようございます。昨日からかなり痛くなって痛み止め追加してもらったんですよ。」

 

いつものはにかんだ顔でこちらを見ている。

 

僕「僕も驚きました。…痛みますか?」

A「今はだいぶ落ち着いてますよ。この注射よく効くわ~。」

 

Aさんは終始落ち着いた調子で話している。

心を許してくれているのかその口調も滑らかで少しくだけている。

 

僕「痛みが強くなったらすぐに言ってくださいね。」

A「ありがとうございます。あ、血液検査はどうでしたか?」

 

僕「すいません。まだ結果が出ていないのでまた出たら持ってきますね。」

A「お願いします。」

 

気持ちを奮い立たせたとはいえまだ混乱の残るこの状態では、

何て声をかけていいのかもわからない。

血液検査もきっと悪くなっているのだろう…

 

結果が出るまでに一旦気持ちを整理しなければ。

 

挨拶を済ましこの場を立ち去ろうとした時だった…

 

 

A「先生、僕もう長くないですかね。」

 

Aさんが不意に話しかける。

今いる部屋に入院しているのはAさんだけであり、部屋には二人きりとなっていた。

 

僕「…え?」

戸惑いを飲み込んでAさんの方へ振り返る。

 

僕「…確かに痛みは出てきましたね。いい状況とは言えないかもしれません。」

A「…そうですよね。…子供、、産まれてくる子供に会えますかね?」

 

Aさんはいつになく真剣な表情でこちらを向いている。

 

僕「…」

 

絶対に無理だ。ここまで来たら僕にでも分かる。

 

 

僕「…現状はいい状況ではありません。どうなるかはまだわかりませんが。」

 

 

認めたくない自分もどこかにいたのだろう。

これ以上は話せなかった。

 

 

…Aさんは笑った。

 

A「…先生は正直やね。ずっと気を遣ってくれてたのわかってたよ。」

A「いやなこと聞いてしまってごめんね。」

 

Aさんは僕の方を見ている。

少し眉をひそめるようにして寂し気に笑う顔は優しかった。

 

 

A「先生、表情に出るから何考えてるかすぐにわかるよ(笑)」

 

こんな時でもAさんは冗談っぽく気遣ってくれた。

 

 

A「…先生はこれから一杯経験して立派なお医者さんになってな。」

 

A「…それでいい薬開発してくれたら皆助かるだろうし僕もうれしいわ。」

 

A「…約束やで。」 

 

A「…」

 

 

A「…ありがとう」

 

 

 

もうまっすぐ見ることは出来なかった。

涙でにじむ視界を隠すように深く礼をしその場を後にした。

 

 

血液検査の結果はどれも悪くなっていた。

もしかしたら腸に穴が開いたのかも知れないという話になったが、

もはや為す術はなかった。

 

家族には上司が説明した。

妻はもちろん泣いていた。子供はまだ状況がよく解っていないようだった。

 

お腹の中の赤ちゃんが無事に元気に産まれて欲しい。

 

そう思いながら僕は上司の話を聞いていた。

 

 

 

…その2日後、Aさんは息を引き取った。

 

 

周りで泣く家族とは対照的に、 

最期の顔も優しかったのが印象的だった。

 

 

葬儀会社の車に乗りAさんと家族が遠ざかっていく。

 

 

深くお辞儀をし終えた後、上司が軽く肩を叩く。

 

上「…お疲れ様。」

 

 

僕「…有難うございました。」

 

多くを語らない上司の後姿を見てAさんとの約束を思い出す。

 

この経験をあとどれだけ刻めば立派な医師になれるのだろう。

 

途方もない道のりだが、今日確実に一歩踏み出した。

 

そんなささやかな自信を寂しさで包み医局へ戻っていく。

 

 

 ふと後ろを振り返る。

 

「...ありがとう。頑張れ。」

あの優しい笑顔が僕の背中を押した。

 

 

 

最後まで読んで頂きありがとうございました!

 

【雑記】優しい笑顔 その15 闘病編【5日目 前編】

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いて行きたいと思います。

最近少しドタバタしてアップできていませんでした。すいません。

 

あと2話で終了です。

 

前回の話はコチラから

 

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話の始まりはコチラから

 

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【5日目】

 

曇天に光は遮られ、その日はあまり気持ちのいい朝とは言えなかった。

とはいえ、リフレッシュできた僕は軽やかな足取りで医局についた。

 

 

そこで何気なく医局のパソコンの画面を開く。

医局のパソコンからでも患者さんのデータは見れるようになっている。

 

 

普段は病棟にすぐに向かうのだがこの日は違った。

これが虫の知らせというやつなのだろう…

 

 

自分で予約を入れたわけでもないのになぜかAさんの「検査結果」のボタンを押した。

 

 

今日の日付で検査結果が表れる。

とは言ってもまだ9時なので一部の結果だけが表示されている。

 

 

(血液検査がオーダーされている?)

(…何かあったのか?)

 

 

立ち込める不安を押し殺すようにN病棟へ急いだ。

 

 

N病棟につくとそこには上司がいた。

 

 

上「あ、先生。おはよう。今日家族さんが来られる日なんやね。僕話すよ。」

僕「え?あ、はい…」

 

 

何が起こっているのかわからないが、

確実に良くはないであろう雰囲気だけは感じ取った。

 

 

僕「あの…何かありましたか?」

上「うん、昨日の昼くらいから何やけど…」

 

上「痛みが強くなってきて全く抑え込めなくなったんよ。」

 

 

上「…なので麻薬導入したんやわ。」

 

僕「麻薬ですか…」

 

 

【癌性疼痛と医療麻薬】

癌が増悪してくると様々な原因から痛み(疼痛)を感じてきます。

現在は極力疼痛を感じないようにコントロールしていく事が良いとされており、

そのためにWHOの定める疼痛ラダーに従って投薬を決定します。

 

と言っても難しい話ではなく、

STEP1はロキソニンに代表されるNSAIDsという種類の薬剤を使用して、

 

それでも駄目ならSTEP3の医療麻薬を使用します。(モルヒネとかです。)

基本麻薬は疼痛に応じて使用する分には依存性は低いですので、いわゆる犯罪の麻薬とは一線を画します。

 

ちなみにSTEP2に準麻薬(トラマールなど)という設定もありますが、すぐに麻薬に移行することが多い事や、麻薬をすぐに準備できない国なども考慮して作られたSTEPなので飛ばしてもよいことになっています。

 

後は症状に応じてその他の薬剤も並行して使用し疼痛を管理していきます。

 

ただし麻薬を使用すると必ず起こる副作用があります。

それは嘔気、眠気、便秘です。

 

 

 

僕「先生、イレウスでしたけど麻薬は大丈夫なんですか?」

 

上「その通りやね。麻薬のせいで腸の動きはさらに悪くなる…」

上「もう、飲水はしない方がいいかな。予後も恐らくかなり厳しいかな…」

 

僕「え…どれくらいなんですか?」

 

上「うーん…でも週明けまでもたないかもしれないね。」

 

 

今日は金曜日…あと2日、3日しかもたない…

 

 

上「家族にもこの話はしないといけないから…僕が話すね。」

 

僕「…よろしくお願いします。」

 

 

予想だにしない展開の速さに気持ちが追い付かない。

一昨日のあの朗報は何だったんだろう。

 

それを僕は大喜びして、Aさんにその喜びを伝播させてしまった。

ぬか喜びさせただけじゃないか…

 

自責の念が胸の内から広がる。

 

 

上「しょうがないよ…しんどかったら後やっとくし先生は他の患者さん診てくれてていいよ。」

 

残念そうにはにかみながら話す上司の気遣いの言葉が胸に刺さる。

 

きっと、何度もこのような思いをしてきたのだろう。

 

その口調には優しさと少しの冷たさ、そして必ず前に進む凄味を感じた。

 

 

「責任を持って立つ事はこういうことだ」

 

 

そう言われているような気がした。

 

 

 

【出来る事を出来る限りやる】

 

この言葉を思い出し、自分の気持ちを奮い起こす。

 

 

闘っているのはAさんだ。

僕が逃げるわけにはいかない。

 

僕「…ありがとうございます。でも大丈夫です。Aさんに会ってきます。」

 

 

そういってAさんの部屋へ向かった…

 

 

 

一旦ここで終了させていただきます。

最後まで読んで頂き有難うございました!

【雑記】優しい笑顔 その14 闘病編【4日目】

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていきたいと思います。

 

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【4日目】

  

4日目は一日外勤の日だった。

 

週に1日大学の関連病院に手伝いに行く。

とは言っても、駆け出しなので大変な業務はまだ少なく、大体夕方16時ごろには終わる。

 

いつもなら仕事を終えた後、大学病院に戻り患者さんの状態をチェックするのだが、

 

 

「この日僕一日いる日やし、大学に帰ってこなくてもいいよ。たまにはゆっくりし。」

  

...と、上司から温かい言葉を受け、張り詰めた気持ちを一旦リセットすべく外勤先からそのまま家に帰った。

 

 

(昨日良くなってきてたし大丈夫だろう)

 

 

突然の休息で特にこれといってする事もなく、

コーヒー片手にのんびりラジオをかける。

 

コーヒーから立ち上る香りは心なしか優しく感じた。

 

 

軽快な音楽とともにDJが淀みなく喋っている。

 

どうやらマイケルジャクソンの映画が公開されるらしい。

そういえば前に亡くなったんだったな...

 

少し気になり、パソコンで調べ始める。

死因は...プロポフォールの過量投与なのか。

 

不眠症で苦しむ彼は、医師がついていないと使用できない程の強い麻酔薬を単独で使用していたらしい。

 

細かい事情は分からないが、他に方法はなかったのだろうか?

 

 

自分ならどうするかと、色々と案を考える。

 

 

(そういえば、以前精神科で研修してた時に不眠症の薬勉強してたな)

本棚を漁り始める。

 

端に追いやられていたその本は、1年ぶりに再び日の目を浴びる。

 

 

【マイケルジャクソンへの不眠症治療】

 

この何の情報もなく、検証しようのない症例に対して

自分なりの答えがでる頃には、外は暗くなっていた。

 

 

明日はAさんの家族が来る日だ。

厳しい話をAさんが家族に伝えてくれてたら話しやすいんだが...

家族が初めて聞く場合も考えて慎重に話さないと。

昨日の良い話も交えながら希望を持ってもらえれば...

 

 

説明のシミュレーションを終え床に就いた。

 

夢でマイケルジャクソンに会えるかと期待したが、

その日は夢を見なかった。

 

 

短めですが一旦終了させて頂きます。

最後まで読んで頂きありがとうございました!

【雑記】優しい笑顔 その13 闘病編【3日目】

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皆様お疲れ様です。

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【3日目】

 

今日は採血と画像検査の日。

大体10時頃までには検査結果が出そろう。

 

 

結果が出次第すぐに病棟に行きたかったが、

あいにくその日は朝から胃カメラの検査があったため、行くのは少し遅れ昼からとなった。

 

 

N病棟に着き、カルテを探す。

 

いつもはカルテ棚に収められているのだが、その日そこにはなく詰所のテーブルの上に置いてあった。

 

 

僕「あれ?カルテ出てるけど、何かあったの?」

看「いえ、痛み止めの指示を確認してました。」

 

僕「ん?...結構痛がってはる?」

看「いえ、何か少し重たい感じがするみたいです。」

 

 

昨日と同じやり取りが続く。

 

 

...何か引っかかる。

 

そんな懸念を抱きながら、カルテを開く。

 

 

(熱は...ないな。血圧、脈拍...問題なしか。)

 

特にバイタルサインに異常は見当たらない。

 

 

(まぁ腸閉塞だしそれくらいはあってもおかしくはないか…)

 

痛み止めの回数は1日に1-2回と変わっておらず、このまま経過診ることとした。

 

 

僕「さて...」

 

祈りを込めてパソコンに表示された「検査結果」のボタンを押す。

 

 

血液検査は、炎症反応がよくなってきていた。

その他も特に悪くなっている部分は見当たらない。

 

 

僕「よし!」

 

 

続いてレントゲン検査を確認する。

 

 

 

腸閉塞は改善していた。

 

 

僕「ふぅ...」

 

久しぶりの朗報に胸を撫で下ろす。

 

 

(...早く伝えてあげないと) 

 

喜びを抱え足早に病室へと向かった。

 

 

僕「Aさんおはようございます!」

 

A「先生お疲れ様です。どうでしたか?」

 

 

僕「今日はだいぶ良かったですよ!まずは...」

 

喜びのあまり今日の体調など聞くのを忘れ、

早々にレントゲンと血液検査の結果を説明する。

 

 

A「本当ですね!有難うございます。あ、あと便も出ましたよ!」

 

 

僕「本当ですか!良かった。これで管抜けますね!」

 

A「良かったです!」

 

 

朗報が続く。

鼻の管も抜ける、便も出ている。

 

 

次はご飯食べれるようになるんじゃないか? 

そうなれば退院だって...

 

 

そしたらこのまま良くなって来月末には子供の顔見れるんじゃないか?

 

 

いつの間にかAさんの希望は、自分の希望にもなっていた。
 
 
...何とかしたい。
 
…いや何とかなる。
 
 
そう思うようになり始めていた。
 
 
 
夕方にイレウス管を抜いた。
 
Aさんは嬉しそうに笑った。
 
 
 
 
その日の痛み止めの回数は3回だった。
 
 
 
 
一旦終了させて頂きます。
最後まで読んで頂きありがとうございました!

【雑記】優しい笑顔 その12 闘病編【2日目】

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皆様お疲れ様です。

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

【2日目】

 

昨日の今日で何かが変わるわけではない。

 

 

それは良くならない事への諦念か、

それは悪くならない事への念望か。

 

複雑に絡み合う思いを胸にN病棟へと向かった。

 

 

病棟につくといつも通り詰所に向かう。

 

看「お疲れ様です。」

僕「お疲れ様です。」

 

勤務形態が皆違うためか、どの時間帯でもこの挨拶がとり行われる。

 

ふと目をやると詰所の近くの病室が見える。

そこにAさんがいた。

 

 

僕「あれ?Aさんの部屋こっちに移ったんや?なんかあった?」

 

不安がよぎる。

詰所の近くの病室はすぐに対応できるよう重症患者が入る事になっていた。

 

 

看「いえ、一応急変に備えた方がいいかと思い移ってもらいました。」

 

 

近いうちに必ず起こるであろう病態を「急変」と表現するのに違和感を覚えながらも、

何事もなかった事に安心する。

 

 

するとAさんがこちらを向きいつものようにはにかんでいる。

 

本来は昨晩の看護カルテを確認してから病室に向かうのだが、

目が合ったので手順を飛ばしAさんのもとへ向かう。

 

 

僕「おはようございます。いかがですか?」

 

A「おはようございます。昨日よりもお腹の張りもましになってだいぶいいですよ。」

 

 

僕「便は出ましたか?」

排便があれば腸が動き出した証拠となる。

 

A「まだ出てないですね。」

 

僕「そうですか…」

 

 

僕「…でも症状が良くなってきたのはいいですね!明日血液検査とレントゲン行いますね。」

 

A「わかりました。お願いします。」

 

 

僕「また何か症状悪くなったりしたらすぐに仰って下さいね。」

 

A「怖い事言わないで下さいよ(笑)…わかりました。」

冗談っぽく話すAさんにこちらも笑顔で応え病室を後にした。

 

 

詰所に戻り、昨晩のカルテを確認する。

 

僕「ん?痛み止め使ったんだ。結構痛がってたん?」

 

【入院指示】

入院の際には、痛みが出たらこれ、熱が出たらこれ、といった具合に使う薬剤を指示しておきます。

そして夜間などはその指示をもとに看護師さんに薬剤を使用してもらう事で迅速な対応ができます。

 

 

看「いや、そんなに痛がってはいなかったみたいですよ。なんか重たい感じがするとかで1回だけ使用したみたいです。」

 

僕「まぁ、腸閉塞も残ってるししょうがないか。わかりました、有難うございます。」

 

 

重たい…か。

 

症状もよくなっており、経過観察の方針とし病棟を後にした…

 

少しの憂慮を胸に。

 

 

一旦終了させていただきます。

最期まで読んでいただきありがとうござました!

【雑記】優しい笑顔 その11 闘病編【1日目】

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

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 第一話はコチラから

 

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【あらすじ】

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
自信を取り戻した僕はもう治らない状態である事をAさんに伝えた。

そして最期の入院生活が始まった。

 

 

 

僕「さて…」

 

Aさんと話した後、そのまま詰所に戻りパソコンの前に座った。

(点滴の予定を組んで、採血の予定を入れて、明日もう一度レントゲンを撮って…)

今後の予定を考え始める。

 

 

 

 

「本当ですか?…やった。」

あの時のAさんの笑顔が頭から離れない。

 

 

…これでよかったのか?

…いや、これしかなかった。

 

 

自問自答の渦が葛藤となって押し寄せる。

 

パソコンに向かう手は止まっていた。

 

 

そんな姿を気にしてか看護師さんが声をかけてくれる。

 

看「先生大丈夫ですか?」

僕「うん、ありがとう。大丈夫。」

僕「…とりあえずかなり厳しい状態ってことは伝えたけど、点滴で経過みようって話してきました。」

 

看「はい。」

僕「退院も出来たらいいなって話もしてて…厳しいかもしれないけど…」

 

看「はい。」

僕「だからとりあえず出来る限りの点滴で戻ってくれたらいいなって思ってます。」

 

看護師さんは頷きながら聞いてくれている。

その心遣いが気持ちを和らげる。

 

 

僕「よし。」

 

再びパソコンに向かう。

栄養管理、抗生剤、腸を動かす点滴、そしてサンドスタチン

それらを組み合わせて点滴のオーダーを立て指示を出す。

 

続いて血液検査、レントゲン検査の指示を出す。

 

血液、レントゲン検査は2日後に行うこととした。

 

 

…さぁ、これで準備は出来た。

出来る限りの事は行った、後は祈るだけだ。

 

 

…そう、祈ることしか出来ない。

 

 

長い一日が終わった。

 

 

今回ちょっと短かったのですが、

まとめにくかったので一旦終了します。

箸休め的な回と思ってご容赦ください…

最後まで読んでいただき有難うございました!

【雑記】優しい笑顔 その10

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皆様お疲れ様です。

前回の続きを書いていこうと思います。

 

前回の話はコチラから 

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【あらすじ】 

化学療法班を周る新人の僕は32歳という若い大腸癌患者Aさんの担当になった。
もう治らない状態である事を初めAさんに伝える事が出来なかった僕は上司、同僚との相談を経て自信を取り戻す。

そしてAさんへの病状説明が始まったのだったが...

 

 

僕「…え?」

 

 

 

A「…実は、子供がもうすぐ産まれるんです。」

 

 

再び衝撃が走る。

 

僕「そう...なんですか。」

僕「...」

 

頭の中が真っ白になった。

何と声をかけていいのかもわからない。

 

 

やっぱり上司に話をしてもらえば良かった。

逃げの気持ちが再び顔を出す。

 

 

僕「...」

 

A「...」

 

 

沈黙を破ったのはAさんだった。

 

A「すいません、何か困らせちゃいましたね。予定日は来月末なんです。」

 

 

少しはにかみながらこちらを気遣ってくれている。

 

 

僕「いえ...そんなことはないですよ。来月なんですね。お名前は決まってらっしゃるんですか?」

 

産まれてくる子供の話に切り替えるしかなかった。

 

 

来月末まではあと6週間近くある。

 

「予後は2週間くらいちゃうかなぁ...」

上司の言葉が脳裏をよぎる。

 

 

…間に合わない。

 

 

A「決まってますよ。○○って言うんです。これには...」

僕「そうなんですね。...」

 

 

頷きながらしばしAさんの話に耳を傾ける。

しかし内容は全く頭に入ってこない。

 

子供への愛情を語るAさんの表情はとても優しい。

その笑顔だけが印象に残った。

 

 

A「おっと、僕の話してる場合じゃなかったですね。」

僕「いえ、聞かせていただいて有難うございます。」

 

 

A「...先生、これから僕はどうなりますか?」

 

僕「...はい。話を戻しますね。先ほど説明した癌性腹膜炎ですが、仰る通り治ることはないです。」

 

A「...」

 

 

僕「ですが、現在の状況はそれ以外の要素も併発している可能性はあります。」

 

A「…?どういうことですか?」

 

 

僕「はい。メインは癌性腹膜炎ですが、腸閉塞になったことによる感染、炎症も重なっている可能性があります。そうなれば抗菌薬で少しは良くなるかもしれないです。」

 

A「そうなんですね!」

 

 

僕「それに、まだ腸を動かす薬を使っていないのでそれを使う事でも少し動いてくれる可能性はあります。」

 

少しAさんの顔がほころぶ。

 

A「じゃあ、良くなって退院できるかもしれないですか?」

 

 

 

「かわいそうやけど、この入院が最後やわ」

またも上司の言葉が釘を刺す。

 

 

 

きちんと病状を説明するべきだ。

いや、希望を奪う必要はない。ここは退院出来るかもしれないと言ってあげるべきだ。

 

嘘をついて向き合っていると言えるのか?

結果は変わらない。退院できないならせめて希望を持たせてあげるべきだ。

 

自分は神にでもなったつもりか?

......

 

産まれてくる子供の事を話すAさんの優しい顔が浮かぶ。

 

...

 

...

 

 

希望を奪う必要はない。

【退院できるかもしれない】

その気持ちが生きる活力になればいい。

 

 

僕「...そうですね。上手く薬が効いてくれれば退院できるかもしれないです。」

 

A「本当ですか?...やった。」

 

 

これは嘘ではない。

頑張って長く生きれれば一時退院出来るかもしれない。

何度も自分に言い聞かせた。

 

 

僕「ですが、もちろん癌性腹膜炎がメインなのは変わりません。しばらくは食事は出来ませんので点滴で補いますね。」

 

A「…そうですよね。でも希望が持てました。ありがとうございます。」

 

Aさんは真っすぐこちらを見ている。

その優しい笑顔に胸が締め付けられた。

 

 

 

…これは嘘ではない。

 

 

 

Aさんの最期の入院生活が始まった。

 

 

 

長くなりましたので一旦終了させて頂きます。

最後まで読んで頂きありがとうございました!